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運動指導のひと工夫-自主トレを充実させる

掲載日:2019/04/10

運動教室に参加する高齢者の増加に伴い、運動指導に携わる皆さんの活躍の場もますます広がっていることでしょう。今回のコラムでは、教室参加日以外の利用者の日々の過ごし方に目を向けてみたいと思います。いわゆる「自主トレ」です。

例えば、週1回の教室であれば、利用者にとって中6日は自主トレの期間になります。この期間をただの休養期間にするか、次の教室に臨む準備期間にするかは、指導者の皆さんの力量にかかっているかもしれません。

皆さんの目の届かない所でも、利用者に良い自主トレを行なってもらいましょう。そのためには、現状の運動指導にもうひと工夫が必要です。

 

良い自主トレに導くためには

教室での運動指導の中心は、筋力訓練、バランス訓練、ストレッチなどの機能訓練になります。これらの機能訓練を「ちょっときつい」や「あら、不思議!」に変えてみましょう。

毎回の運動指導で利用者に気づきを与え、次回までの宿題を課すのです。こうすれば自主トレ期間に宿題をしっかりやって、次の回には運動をレベルアップさせて戻ってきてくれます。

ここでは、私が介護予防指導士講習の講義で扱うひと工夫を一部紹介します。

 

ちょっときつい

椅子からの立ち上がりを反復する定番のスクワット。もし10回反復して「ちょっときつい」と感じたならば、皆さんは危機感を持ってスクワットを必死で練習すると思います。

しかし、何回反復しても苦にならない人にとっては、この10回のスクワット練習をずっとやらされることは苦痛だと思います。あまりにも物足りなくて、おそらく止めてしまうでしょう。

この現象は教室の利用者にも当てはまります。あまり楽をさせてはいけません。そんなときは、10回のスクワットのうち、最後の3回は椅子座面にお尻が触れる直前で踏ん張らせてみましょう。同じ10回のスクワットが劇的に変化して、大腿部の筋肉がプルプルしてきます。

これは「等尺性筋活動」という関節運動を伴わないトレーニング方法であり、筋肉にも強い力が入りやすく(自分で触って大腿部の筋肉の盛り上がりを確認してみてください)、関節に負担をかけずに数回で筋肉を疲れさせるのに有効です。

立ったままお尻をギュッと締めればお尻の筋肉が、両腕を床と水平に外側に伸ばした位置でキープすると肩の筋肉が早くに疲れてきます。この「ちょっときつい」等尺性筋トレーニングをぜひ運動指導で試してみてください。

 

あら、不思議!

ストレッチは運動前後に必ず行ないます。しかし、指導者の皆さんがなんとなく行なってしまっては、利用者もなんとなくこなしたまま1クールが終了してしまいます。ストレッチも立派な運動プログラムであり、継続的に行なうことで柔軟性を獲得でき、ひいては姿勢の改善や疼痛予防も期待できます。覚えてもらったストレッチをぜひ家に持ち帰ってもらうような工夫をしてください。

そこで、ストレッチの即時効果を利用して、利用者にストレッチにはまってもらう戦略を紹介します。

ストレッチ直後は、数分から数十分の範囲で筋肉は柔軟になり、関節を自在に動かすことが可能になります。ストレッチの効果を言葉にすれば「怪我の予防」の一言で片付けられてしまいそうですが、ありふれた言葉は利用者の心に残りません。皆さんはぜひこの筋肉の特性を利用して、ストレッチ前後での身体運動の変化を利用者に体験させてください。

「ストレッチしたら腕が軽くなった」
「ストレッチしたら床に手が届くようになった」
「ストレッチしたら大きく動かしても痛みが出ない」など。

こんな「あら、不思議!」を提供することも、良い自主トレに導くのに有効な手段になります。

 

間違った自主トレに要注意!

私は介護予防指導士講習の講義で、運動指導に必要なひと工夫を伝授するために、日々現場で得たヒントを頭の中にストックしています。しかし、教室には参加しているが、なかなか乗ってこない利用者もまた多く存在します。いわゆる「運動脱落予備軍」です。

彼らの多くは自分流の自主トレを持っています。しかし、それは教室を楽しく継続するための自主トレではなく、教室がつまらなくなってきたときに脱出するための自主トレなのです。
以下のような問答になったら要注意です。

指導者:「もう少し教室で頑張りませんか?」
利用者:「自分のペースを守りたい。自分でやる運動の方がずっときついよ。」
指導者:「どんな運動をしているのですか?」
利用者:「毎日万歩計付けて早歩きしているよ。昨日は5千歩歩いたよ。」
指導者:「他には?」
利用者:「階段の上り下りしているよ。エレベーターは使っていないよ。」

自分流の自主トレを持つことは大事です。しかし、明らかに能力を超えたレベルの運動、もしくはほとんど負荷にならない運動を続けている高齢者は、実際に多く存在します。こうした運動は、「苦行」や「気分転換」であり、介護予防のトレーニングではありません。適度の負荷を理解させることも、運動指導の大事な役目になります。

最後に、高齢者のウォーキングについて述べます。ウォーキングのメリットは非常に多いのですが、運動指導者としては、デメリットもあることを知っておきましょう。

 

高齢者のウォーキング

ウォーキングは、あくまでも「心肺機能を健康にする有酸素運動」です。全身運動にはなりますが、大きな筋肉の活動はありません。だから、比較的長時間歩き続けられるのです。しかし、大きな筋肉の活動がないため筋力強化の効果はあまり期待できません。

では、階段や坂を利用してウォーキングをしてみてはどうでしょう。階段や坂で行なうウォーキングでは、平地よりも運動の強度が上がり、筋力強化の効果は期待できます。

しかし、段数や傾斜が増えてくれば徐々にきつくなってきて、高齢者の足腰の筋肉では耐えられなくなります。姿勢は崩れ、さらには関節などに負担がかかってきます。つまり、ウォーキングでも無理をすれば関節や筋肉を痛めるリスクがあるということです。

また、「風が強いので明日にしよう」というように、つい自分のペースになりがちです。手軽にいつでもできる分、自分に甘くなりやすいということも要注意といえるでしょう。

 

まとめ

➀家での自主トレ期間は、次回の運動教室に向けての準備期間です。毎回の運動指導で利用者に気づきを与え、次回までの宿題を課しましょう。次の回には運動をレベルアップさせて戻ってきてくれます。

➁利用者に良い自主トレ期間を過ごしてもらうためにはひと工夫が必要になります。通常の機能訓練に「ちょっときつい」や「あら、不思議!」をどんどん付加しましょう。

➂自分流の自主トレには、やはり限界があります。自分を追い込むのはなかなか難しく、追い込めたとしても怪我をしてしまう危険性があります。

➃指導者は、参加者が自主トレでウォーキングをしていても、介護予防の運動プログラム(ストレッチ、筋力訓練など)を自主トレのメニューに組み込むようにしましょう。

 
「ストレッチング」「リハビリテーション」担当講師

 
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