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介護予防とウォーキング

掲載日:2019/03/18

介護予防になぜ歩行が重要か

皆さんは1日の歩数を意識しているでしょうか。平成29年の「国民健康・栄養調査結果」によると、成人男性で1日平均6,846歩、女性で5,867歩となっています。これを「多い」と捉えるでしょうか、「少ない」と捉えるでしょうか。例え「多い」と捉えたとしても、普段の生活の中で数千歩、活動量の少ない方でも数百歩は歩いていますので、決して多くはないと感じられたと思います。

では、1日1歩も「歩かない」ことを想像したことはあるでしょうか。ヒトは起床から就寝までの間、生活をしていくためにさまざまな移動を繰り返します。その手段が断たれる(絶たれる)ことを想像してみてください。外出はもちろん、家の中でさえ移動ができなくなるのです。家の中での動かない生活を強いられるということは、極めて動作が限られます。そして、生きることに対する前向きな姿勢が次第に失われ介護状態になる可能性が高くなります。

「歩数の捉え方」から「動作の制限」までを極端な例を挙げて述べましたが、介護予防に歩行がなぜ必要なのかは極めて明確です。それは「生きる意欲」を持ち続けるためなのです。

 

「歩かない」ことによって起こる弊害

平成29年の「体力・スポーツに関する世論調査」によると、「この1年間におこなった運動・スポーツ種目」の第1位はウォーキング(散歩などを含む)で57.0%でした。年代別にみると、40代で49.4%、50代で49.8%、60代で59.6%、70代で70.8%と年代が高くなるにつれて実践率は高くなっています。

これは、加齢に伴い健康を意識するようになり、ウォーキングが「健康づくりの維持・改善に適した身体活動」という認識が強いことが理由だと言えるでしょう。

一方、若年者は年々外出頻度が減少しています。歩いて外出することはもちろん、自家用車での外出も減少しており、ここ数年の新成人の自動車免許証取得率は50%程度という実情です。これらから、若年者は家に引きこもっていく傾向が高いと言えます。

原因は、インターネット、SNS、携帯ゲーム等の普及です。ここ十数年、幼児から青年期における体力は低下の一途をたどっていますが、それと同時に生活習慣病の罹患率が増加しています。食生活が大きな要因であることはもちろんですが、それに加えて基本的な「歩く」という身体活動が不足していることも要因であることは明らかです。そして、このことが高齢期の介護につながる可能性を高くしているのです。

 

いかにしてウォーキングを動機づけるか

運動のみならず勉強でもそうですが、動機づけが最も難しいと言われています。これは脳にスイッチが入っているか否かという言い方もできます。ここでは「ウォーキングをやろう」というスイッチを脳に入れるきっかけについて紹介したいと思います。

一つ目は、「歩きたいと思える環境を探す」ということです。歩きたい環境は人それぞれ異なります。自宅周辺、街中、あるいは、公園や景観地などの自然環境の中を歩くことが好きな人等さまざまです。まず、自分は「どのような環境が好きなのか」をイメージしてみましょう。近隣に山、公園、神社、寺といった緑が多い場所、川べり、湖の側、海沿いといった水辺のある場所があれば一度足を運んでみてください。

二つ目は、「歩きたい環境をつくりだす」ということです。都市部などでは前述のような自然環境がなかなか近隣に見つからない場合もあります。その場合は、人為的な環境も必要になります。つまり、自分で環境を作ってみるのです。例えば、名所、旧跡などを起点としてコースを作ってみたり、駅までのルートを開拓したりすると意外にも面白い発見があったりします。私も実際にさまざまな場所を歩き回って感じたのですが、地元の人もあまり知らない名所や駅近隣にはない穴場の店などが見つかってウォーキングが楽しくなったという経緯があります。

 

ウォーキングを習慣化するための方法

ウォーキングに限らず身体活動を習慣化することは、介護予防においても大変重要です。習慣化は、性別、年齢、体力水準、運動歴、性格といった要素に影響を受けると言われており、また、「疲れる」「面倒だ」「やる気がない」「つらい」といった印象を持つと習慣化は難しくなります。

これらすべてを払しょくすることは困難ですが、下記に挙げたいくつかの例を実践していく中で、自分に合う方法を模索してください。すべて経験則に基づく方法ですが、多くの方々に一定の効果が得られています。

 

習慣化のための方法①:歩数計で距離を測り記録する

歩数計とスマートフォンなどのアプリ(Steps、Walker、Moves、RunKeeperなど)についている距離表示の機能を使って、おおよその距離を測ってみることをお奨めします。またその歩数と距離を記録するとウォーキングを実践した満足感が得られますので、習慣化できる動機づけになります。

 

習慣化のための方法②:実践する時間をあらかじめ決めておく

1週間のうち、どの曜日のどの時間帯にウォーキングを実践するか決めておくと習慣化しやすくなります。前もって時間を確保すると、必ずその時間に取り組めるような癖がついてきます。

 

習慣化のための方法③:玄関には必ず靴を準備しておく

これは意外と効果があります。ウォーキングを実践するため玄関に向かったところ、「靴はどこに?」となることが多いようです。ここで靴を探したり、見つからなかったりすると、その時点でやる気は半減します。常に靴は玄関に置くようにしましょう。

 

習慣化のための方法④:常に動きやすい服装(トレーニングウエア等)を着用する

仕事や学校から帰宅したらすぐに動きやすい服装に着替えておくと外へ出やすくなります。動きやすければ普段着でもよいのですが、まとまった時間ウォーキングを実践する場合は、トレーニングウエアの着用をお奨めします。

介護予防を目的としたウォーキングを普及させるには

介護予防を目的としたウォーキングを普及させるためには、さまざまな取り組みがあると思います。ここでは個人レベルおよび組織(集団)レベルでの取り組みについて挙げておきたいと思います。

 

ウォーキング(歩き)仲間を集う

皆さんの地域では早朝や夕方にウォーキングをされている方をみかけませんか。そのような方は運動を習慣化されている方で、恐らく同じ時間帯に実践されている可能性が高い。その時間帯をねらってまずはウォーキングを実践してみてはいかがでしょう。最初は顔を合わせるだけですが、そのうち挨拶を交わすようになり、うまくいけばウォーキング仲間になる可能性もあります。

また、友人・知人の中にもそれとなく声を掛けてみましょう。実のところ「運動はしたいが一人では…」と考えている人が意外にも多くいるものです。そのような人に話題提供してみると、これまた意外にも「一緒にやろう」と賛同してくれる人がでてくるかもしれません。

 

SNS等のネットワーク活用

近年のSNSの普及により特にツイッター、LINE、フェイスブック等を活用して情報交換をする機会が増えました。これを活用しない手はありません。とにかく「ウォーキング仲間」を集う発信をかけてみるという方法です。

但し、本格的なウォーキングを実践するような呼びかけで発信することは避け、ゆるく楽しく実践するといった感じの発信が望ましいでしょう。「少しぐらいなら始めてもいい」と思わせれば、リスポンスの可能性は高くなると思います。

 

自治体での普及活動

これは主体的な活動が必要ですが、介護予防指導士の肩書を引っ提げて自治体に売り込んでいくという手段です。自治体のホームページなどを覗いてみると、多くの場合「健康づくり」に関する何がしかの取り組みがなされています。そしてその手段の一つにウォーキングは組み込まれていることが多いはずです。

積極的な自治体だと、ヘルスロードなどを設定しているところもあります。そのような取り組みの中で「ウォーキング指導」ができると大きな自信につながり、自らの普及活動にも拍車がかかるでしょう。

 
中村 容一(なかむら よういち)
「筋力訓練指導」「測定と評価」担当講師

大塚製薬株式会社にて医薬情報担当者に10年間従事。筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了。博士(体育科学)。筑波大学大学院人間総合科学研究科研究員を経て、現在、豊岡短期大学准教授。特定非営利活動法人日本介護予防協会理事、社団法人日本ウォーキング協会専任講師を兼務。専門は「中高齢者の健康づくり」「介護予防のための運動」主な著書に、「介護予防のためのウォーキング」(黎明書房)、「健康スポーツ科学」(文光堂)、「中高齢者のための運動プログラム(病態別編)」(NAP)等。

 
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