介護予防の運動指導は、「何を目標に」「どんなプログラムを」提供すれば良いでしょうか。
このコラムでは、病院で行なわれるリハビリの治療訓練の内容と比較しながら、介護予防の運動指導の目標とプログラムの特徴をクリアにしてみたいと思います。
リハビリの治療訓練とは
リハビリの治療訓練とは主に「病院などの医療機関で行われる心身の機能回復に特化したもの」を指します。そこでは、リハビリ専門職によるマンツーマンでの集中的な治療訓練を受けることができます。そして退院(リハビリ終了)時に、機能回復の目標が十分に達成された状態になることを想定して訓練が進められます。
このリハビリは誰もが希望すれば受けられるというわけではありません。
担当医師から「リハビリが必要である」という診断があって初めて受けることができます。また、リハビリを受けられたとしても、「機能障害の治療訓練のみ」が対象になります。
例えば、肩の骨折をすれば、肩周りのリハビリは十分にできます。しかし、「足腰が弱い」という理由から、リハビリ専門職が勝手にスクワット練習をプログラムに追加することはできないのです。
リハビリの治療訓練は、どこの機能を改善(治療)するのかが決まっており、そのためのプログラム内容や日数などに様々な制約があり、本当に必要な患者のみが受けられるものとなります。そのため長期に渡ってのリハビリは年々難しくなってきています。
介護予防の運動指導とは
介護予防の運動指導では主に『地域の高齢者が将来、要介護状態に陥らないように運動を通じて心身機能や生活機能を維持・向上すること』を目指します。
そこでは、リハビリの治療訓練のような手厚いマンツーマンの運動指導ではなく集団指導によるものがメインといえるでしょう。
リハビリとは目標が異なるので、リハビリの治療訓練をコピーして、それをそのまま地域で実施するわけにはいきません。
実施するプログラムは、『高齢者の心身機能の維持・向上のために運動習慣を定着させる』という介護予防独自のものになってきます。
『介護予防の運動プログラム』の特徴とは
介護予防の運動指導は、高齢者の心身機能維持・向上のために、運動の習慣化を図ることが一番の目的です。ここでは、介護予防の運動プログラムの大きな特徴を一部紹介しましょう。
全身運動
生活機能の中心である「立ち上がる」や「歩く」を続けていくためには、下肢・体幹の筋力、バランス機能、柔軟性を維持することが重要になります。
リハビリの治療訓練同様、介護予防の運動指導でも、筋力訓練、バランス訓練、ストレッチなどの機能訓練が中心になります。さらに音楽のリズムに合わせての上下肢運動や複雑な動きを伴う指技・足技の運動など課題的かつレクリエーション的なプログラムも含まなければなりません。
こうした全身運動によって、高齢者の脳・神経・筋肉などの諸器官がより活発になることを狙っています。
椅子を使った運動
介護予防の運動指導は、集団参加型であることが大きな特徴です。
例えば、狭いフロアで10人程度の参加者を指導するとします。あるとき、マットを利用した床でのプログラムを数種類実施しました。さて、この試みは教室全体の運営上どのような問題が起きるでしょうか。
まず、狭いフロアではマットが重なり合った部分に足を取られてつまずきやすくなります。つまり、転倒が起こりやすい環境下での運動を参加者に強いてしまうことになります。
また、床からの立ち座りを参加者に反復させることは、高強度(きつい)運動を強いることになります。これは、非常に心臓に負担のかかる所作であり、立ちくらみも起こしやすくなります。さらに、床からの立ち座りは時間がかかるため、教室の時間運営において遅延に繋がります。
そのため、介護予防の運動指導では『椅子』の利用がメインになります。
椅子座位からプログラムが開始されれば、上記のマットを利用することでの不利益は解消されます。また、片足立ち練習や足踏み練習の実施に際しても、椅子の背もたれを手すり代わりに利用すれば安全な運動指導が実施できます。
楽しく継続できる運動
運動プログラムをいくつも知っている人や常に明るく堂々としている人は、運動指導者としての素養があるかもしれません。しかし、いくら素養があったとしても、プログラムに工夫や調整もなく、漫然と同じことを繰り返すようでは指導者として不十分です。
介護予防の運動指導では、運動習慣を定着させるために、楽しく継続できる運動プログラムであることが重要です。それは、刺激的で、意外性があり、参加者の関心を惹くようなプログラムを提供することだといえます。
まとめ
■介護予防の運動指導の目標は、『地域高齢者の心身機能や生活機能を維持・向上させること』と『運動習慣の定着』です。
■介護予防の運動プログラムは、機能訓練に加えて『課題的かつレクリエーション的要素も含んだ全身運動』です。
■介護予防の運動プログラムは、集団参加型であり、安全面や教室の運営上から椅子を使った運動が中心になります。
■介護予防の運動プログラムは、参加者の関心を惹くような、楽しく継続できる運動でなければなりません。
「ストレッチング」「リハビリテーション」担当講師