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介護予防を目的とした筋力トレーニングとは

掲載日:2019/01/17

筋力トレーニングというと、バーベル、ダンベル、トレーニングマシンなどを使った運動を思い浮かべる方が多いと思います。その定義は、「負荷を用いてからだの機能や形態の改善を図るトレーニングの手段」です。

 

『傷害の予防』をめざす

筋力トレーニングを実践する目的は大きく分けて二つあります。一つ目は『筋力の維持・改善』、二つ目は『傷害の予防』です。

スポーツ選手はもっぱら筋力の向上や筋量の増大を目指し、それらを専門種目に活かすことが大きな目的になります。

一方、介護予防を目的とする中高齢者では、筋力を高い水準まで向上させる必要はなく、むしろ傷害を予防できるだけの筋力が備わっていれば十分であると言えます。

したがって、介護予防のための筋力トレーニングではスポーツ選手のトレーニングほどの強い負荷をかける必要はありません。

 

筋肉の役割を実感してもらう

筋肉は頭から足先までの間に約650個もあり、それらがからだの動きを支えています。

 
皆さんはこんな経験はありませんか。
例えばインフルエンザなどで1週間床に臥せった状態からようやく復帰したら、思いのほかヨロヨロしてしまい足の筋肉が弱っていることに気付く。たった1週間使わなかっただけで筋肉は簡単に衰えてしまう。

何でもない私たちの日常生活が筋肉によって支えられていることを実感する瞬間です。中高齢者の場合、さらに加齢による衰えも加わります。だからこそ、介護予防には「筋力トレーニング」が欠かせないのです。

そこで、介護予防を目的とする筋力トレーニングを指導する場合、対象となる方にまず「日常生活における筋肉の使われ方」を理解していただくことが大事です。

もちろんすべてを覚える必要はありませんが、ヒトが生活をしていく上で最低限必要な筋肉は実際に動かしながら覚えていただくとよいと思います。

 

日常生活における筋肉の使われ方

例えば、足の指を自由に動かすことで「短指伸筋」、足首の曲げ伸ばし(屈曲・伸展)をおこなうことで「前脛骨筋」「下腿三頭筋」、
椅子からの立ち上がり動作をおこなうことで「大殿筋(お尻の筋肉)」「大腿四頭筋」「大腿二頭筋」と、それぞれの筋肉に負荷をかけることができます。

たったこれだけの動作で下肢(腰から下)の筋肉に全て負荷をかけたことになります。

これまで無意識に動かしていた場所(筋肉)を意識的に動かしてみることは、筋力トレーニングに必然性を持たせ、つらいイメージを少し変えることにつながるでしょう。

 

「呼吸」も立派な筋力トレーニング

介護予防の対象者の中には、実際にからだを動かすことが困難な方もいらっしゃるので、そのような方には呼吸だけでも意識してもらうことをお奨めします。と言うのも、呼吸は立派な筋力トレーニングだからです。

試しに、お腹(腹直筋)を両手で押しながら呼吸をしてみてください。
お腹に負荷(抵抗)が加わっているのがよくわかると思います。つまり呼吸には筋肉(呼吸筋)の活動が必要であり、すなわちそれは「生きていく」ために必要な活動ともいえるわけです。

そのような呼吸筋を筋力トレーニングで意識的に鍛えることで、身体への負担が軽くなり、以前より呼吸が楽にできるという効果が期待できます。

 

筋肉を意識する

筋力トレーニングをこれまでと異なった解釈をするだけで、従来からのつらいトレーニングという印象を変えることができます。

例えば、生活の中で必ずおこなう座り立ち動作、物をつかんだり運んだりする動作等も筋力トレーニングの一部ということができます。
それらは生活に必要な動作であるがゆえ、「つらい」「苦しい」といった自覚はないでしょう。

さらには、何かをしている最中にどのような筋肉を使ってからだは動いているのか、という意識を1日1回でも習慣づけることも良いでしょう。

「意識しすぎるとストレスになるのではないか」と思われるかもしれませんが、私の経験則から言えば「大丈夫」です。
人間の意識というのはそれほど続きません。

気が付いた時に「あぁ、この時はここを動かしているんだな」という程度で十分です。介護予防の観点からはその程度でも十分筋力トレーニングになり、習慣化していくと少しずつ「欲」が出て、筋肉を動かそうという意識はさらに高くなってくるでしょう。

 

まとめ

以上、介護予防における筋力トレーニングの考え方についてお話いたしました。
このコラムだけでは、筋力トレーニングのイメージを簡単に変えることはできないかもしれません。
しかしながら、自立して生きていくためには筋力トレーニングが必要である、という認識を持っていただくと介護予防と密接に関連していることがおわかりいただけると思います。

最後に、今後運動の指導のみならずこれから筋力トレーニングを始めようと考えている皆さんに、今回のまとめをもう一度整理して述べておきたいと思います。

① 介護予防に必要な筋力トレーニングはあくまで「傷害の予防」が第一であると認識する

② 筋力トレーニングのイメージを「強い負荷をかける」から「動かす筋肉を意識する」に変える

③ ヒトは生きていることそのものが筋肉を動かしていることと同じであると考える

④ 無意識に行なっている呼吸も立派な運動であり、筋肉(呼吸筋)の活動であることを認識する

 
中村 容一(なかむら よういち)
「筋力訓練指導」「測定と評価」担当講師

大塚製薬株式会社にて医薬情報担当者に10年間従事。筑波大学大学院博士課程体育科学研究科修了。博士(体育科学)。筑波大学大学院人間総合科学研究科研究員を経て、現在、豊岡短期大学准教授。特定非営利活動法人日本介護予防協会理事、社団法人日本ウォーキング協会専任講師を兼務。専門は「中高齢者の健康づくり」「介護予防のための運動」主な著書に、「介護予防のためのウォーキング」(黎明書房)、「健康スポーツ科学」(文光堂)、「中高齢者のための運動プログラム(病態別編)」(NAP)等。

 
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